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Jean Dubuffet(ジャン・デュビュッフェ)

比較的激しい抽象表現/アクションペイントの先駆者

ジャン・デュビュッフェ(Jean Dubuffet, 1901年 – 1985年)は、フランスの画家、彫刻家、芸術理論家で、特に「アール・ブリュット」(粗野芸術、または「生の芸術」)の概念で有名です。彼の作品は、伝統的な美術教育を受けたアーティストによる精緻で洗練された技術や表現とは異なり、しばしば荒削りで、無骨で、直感的なスタイルが特徴です。

1. アール・ブリュット(Raw Art)

デュビュッフェが最も注目された概念の一つが「アール・ブリュット」です。これは、主に精神障害者や自学自習のアーティスト、民間のアーティストなど、伝統的な美術教育を受けていない人々によって作られた芸術を指します。彼はこれらの作品に、一般的な美術界の規範から解放された新しい可能性を見出し、その力強さや独創性に魅了されました。デュビュッフェはアール・ブリュットを芸術の「純粋な」形態として評価し、正式な美術の世界から疎外されたこのような作品にこそ、真の芸術的価値があると主張しました。

デュビュッフェは1951年、スイスのローザンヌでアール・ブリュットのコレクションを公開し、これを世界的に広めました。アール・ブリュットは後のアウトサイダー・アートの概念にも影響を与えました。

2. 独自のスタイルと技法

デュビュッフェは、従来の美術技法や表現方法を拒絶し、独自のスタイルを確立しました。彼の絵画は粗雑で、筆跡が強調され、色使いも時には不均一で原始的です。また、彼は絵画の表面にテクスチャーを加えるために、砂や土、石膏などの素材を使うことがありました。こうした素材は、彼の作品に触覚的な質感を与え、視覚的な魅力だけでなく、観る者に身体的な感覚をも引き起こすような効果を狙ったものです。

3. 「アートの再評価」
デュビュッフェは、伝統的な美術の枠組みに囚われることなく、アートの本質について再評価を試みました。彼の作品はしばしば、社会や文化の常識に対する挑戦を表現しています。彼は既成の価値観に対して挑戦し、既存のアート市場や美術館のあり方を批判しました。そのため、デュビュッフェの作品は時に「非芸術的」とも見なされましたが、彼自身はそれに対して挑戦的であり、芸術の新しい可能性を追求しました。

4. 主な作品
デュビュッフェの代表作には、次のようなものがあります:

「地図」シリーズ(1950年代): 異常な形や歪んだ構造で描かれた地図のような絵画で、地理的な「現実」を歪めた視覚的表現を試みています。
「アーティストの肖像」シリーズ: 画家自身をテーマにした作品で、デュビュッフェが芸術家としての自己像を再定義する試みがうかがえます。
彫刻作品: デュビュッフェは絵画だけでなく彫刻にも積極的に取り組み、特に有機的で粗野な形態の彫刻を制作しました。
5. 影響と遺産
デュビュッフェは、20世紀のアートの流れに大きな影響を与えました。彼のアール・ブリュットの概念は、後のアウトサイダー・アートやフォーク・アートの理解に影響を与え、また、アーティストが伝統的な美術教育や技術に依存せず、自分自身の表現を追求することの重要性を強調しました。

また、デュビュッフェの芸術は、アバンギャルド的な精神と結びつき、社会的・文化的な制約に対する反発を示すものであり、現代アートにおける自由な創作活動の一つの先駆けとなりました。

デュビュッフェは1985年に亡くなりましたが、その作品と思想は現在も世界中の美術館やギャラリーで展示され、評価されています。

参考

ジャン・デュビュッフェ(仏)とアールブリュット、その語源とロジック(note.com)

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